KATOエンジニヤリング開発日誌

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受注プロジェクトの管理を学ぶ - プロジェクトの実行 -

前回に引き続き、履修証明プログラムの「受注プロジェクトの管理」の内容をまとめます。

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前回はプロジェクト計画を立てる流れでしたが、今回は実際にプロジェクトを実行中の内容です。

プロジェクトの実行

プロジェクト計画ができたら計画に従ってプロジェクトが開始される。受注プロジェクト特有の仕事とては下記のようなものがある。

  • プロジェクトの報告の仕組みや管理メトリクスが顧客側と自社内の2通りある
  • 課題やリスクが顧客側を含めたものと自社内に限るものとに分ける
  • プロフィットマネジメント・工事進行基準対応

プロジェクトの進捗管理

プロジェクトの進捗管理は実績値の収集から始まる。計画値(ベースライン)と実績値を比べ、乖離を検知したら是正作業を行う。計画値を変えざるを得ない場合は変更管理の仕組みを通じてベースラインそのものを変えることもある。

受注プロジェクト特有の問題はコスト管理である。請負契約では受注側の内部情報(特にコストや利益)は発注側に開示する必要はないものもある。
プロジェクト進捗管理の中では顧客側と受注者側の立場に注意してデータの共有を図り、プロジェクトを進めていくことになる。

実績値の収集

実績値はプロジェクトの基本要素である「スコープ」「スケジュール」「コスト」の観点でまとめられる。

「スコープ」は次の種類に分けられる。

  • 成果物スコープ
    • プロジェクトの最終成果物や個々の要素成果物の把握が必要
  • プロジェクトスコープ
    • WBSのタスクの完了状況を把握する

「スケジュール」は各アクティビティの終了、またはマイルストーンの終了で把握する。
WBSとアクティビティは同じものとして管理される場合が多いので、スコープの進捗とスケジュールの進捗も同時に把握する。特に注意すべきところは、クリティカルパスのアクティビティについて管理しなければならないところである。

「コスト」は収集の方法が大きく分けて2つあり、プロジェクト全体で資源の投入数を管理するものと、各タスク毎に使用したコストを集計していくものがある。前者の方が正確なコストを収集できるが、各アクティビティ別のコスト効率などの指標はとることができない。

ベースラインとの乖離分析

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計画時に立てたベースラインに対し、実績がどのようになっているかを評価し乖離が見られれば、実績の値を計画値(ベースライン)に近づけるために是正処置や予防処置を行う。修正が不可能な場合には変更管理プロセスを通じてベースラインを変更する。

ベースラインには「スケジュールベースライン」「スコープベースライン」「コストベースライン」があるが、このうちコストベースラインについては受注側だけで管理する。

プロジェクト要員のコスト管理

プロジェクトのコストで大きな割合を占めるのが要員のコストである。プロジェクトによっては要員のコスト管理をおこなわないで、要員数(工数)を代用することもある。これはプロジェクトマネージャが管理しやすいためよく使われている方法である。

アーンドバリューマネジメント(EVM)

アーンドバリュー分析はプロジェクトのスコープ・スケジュール・コストパフォーマンスを同時に管理するための手法である。次のような指標がある。

  • BAC(Budget At Completion)
    • 当初予定した総予算コスト。
  • EV(Earned Value)
    • タスクの終了度合いをそのタスクに予定していたコストで表すポイント。
    • EVが後述するBACに達したらプロジェクトが完了したことを示す。
  • PV(Planed Value)
    • 予定コストの累計値。
    • 作業完了の累計値でもある。
  • AC(Actual Cost)
    • これまでに消費したコストの実績。
  • CV(Cost Variance)
    • 「EV - AC」 で算出する。
    • コスト差異を表す。
  • CPI(Cost Performance Index)
    • 「EV ÷ AC」で算出する。
    • コスト効率指数。
  • SV(Schedule Variance)
    • 「EV - PV」で算出する。
    • スケジュール差異を表す。
  • SPI(Schedule Performance Index)
    • 「EV ÷ PV」で算出する。
    • スケジュール効率指数。
  • ETC(Estimate to Complete)
    • 今後必要な予測コスト。
    • 算出方法は主に下記3つ。
      • これまでの効率は特殊なもので、これからは予定の効率で進むと予想されるとき。
        • 「BAC - EV」で算出する。
      • これまでの効率が今後も継続すると考えられるとき。
        • 「( BAC - EV ) ÷ CPI」
      • これからは新たな方法で進めるとき。
        • 独自の新たな予測コスト
  • EAC(Estimate At Completion)
    • 完成予測コスト。
    • 「AC + ETC」で算出する。
  • VAC(Variance At Completion)
    • 完成時差異。
    • 「BAC - EAC」で算出する。

EVMはプロジェクトのスコープ、スケジュール、コストを一元管理できるという点があるが、いくつかデメリットもある。

  • タスク終了の判断に工夫が必要
  • コストを正確に把握できない
  • タスク単位で指標を取るので、止まっているプロジェクトのコストが計上できない
  • クリティカルパスへの配慮がない

これらのデメリットを理解した上でEVMを使いこなすことが重要である。

品質管理

プロジェクト実行時の品質管理には「品質保証」と「品質管理」という考え方がある。

  • 品質保証
    • プロジェクトにおいていかに品質を作り込めるようなプロセスを実行しているか。
  • 品質管理
    • 出来上がった成果物が品質指標の目標値に達しているかを管理する。

受注プロジェクトではプロジェクトでのプロセス標準や品質管理指標について顧客側と自社の標準が異なる場合があるので、その場合は計画段階でどちらの標準を使用するかを明確にしておき、プロジェクト実行中には計画に従った管理をすること。

進捗管理会議

プロジェクトの進捗会議を定例で開催し、スコープ・スケジュール・コストベースラインを基準に進捗の確認と共有を行う。実績とベースラインの乖離が見られるときはただちに是正処置をとる。是正では対処できそうもない場合は変更管理を通してベースラインそのものを変える。

課題管理、問題管理、リスク管理

プロジェクト実行中の3大管理として次のようなものがあげられる。

  • 課題(Issue)
    • プロジェクト実行中に重点的に管理すべき項目
    • プロジェクトメンバーで重点的に進捗を管理すべき事項を挙げたもの
  • 問題(Problem)
    • プロジェクトに不都合を及ぼす発生した事象
    • プロジェクト実行中に気付いた問題を管理するものやテスト工程で発見した障害などを管理する
  • リスク(Risk)
    • 将来プロジェクトに(良い・悪い)影響を与えるかもしれない事象
    • まだ問題とはなっていないが将来問題になる可能性がある事項を挙げて管理する

プロジェクトによっては上記のものを分けずに一覧表で管理する場合もある。

課題管理

課題管理表には次のような項目を記載する。

  • 各課題毎に優先度・解決担当者・解決期限・状況を記述する
  • 定例会議で重要課題を絞って状況確認する
  • 顧客を含めて共有すべき課題と、自社内の課題については区別して管理する

特に「担当者」と「対応期限」は明確にしておくこと。

課題管理表は「プロジェクトチームで共有するもの」「プロジェクトマネージャに限定するもの」「受注側の課題管理票」のように何種類かの課題管理票を使い分けることも必要になってくる。

問題管理

問題管理には発生した重要な問題はすぐに解決すべきものなので、問題に優先度(または重要度)をつけて「最優先の問題は1日以内」「代替案のある問題は3日以内」「軽微な問題は1週間以内」などの解決期間の基準を設けておくのがよい。

また、課題管理と同様に対応責任者と対応予定日を入れて管理しておくことが重要である。

リスク管理

リスク管理(リスクマネジメント)はプロジェクトの提案時や計画作成時にも行っていた。それぞれ目的や進め方に多少の違いはあるが、基本は「リスクの識別 -> リスク分析 -> リスク対応計画」のステップで行う。

実行時のリスク管理の特徴は、このサイクルを定期的に回すことと、対応策のコストはコンティンジェンシー予備費から使うことである。

受注プロジェクトのリスク管理表にはプロジェクトチームで共有するもの以外に顧客側だけで管理するものや受注企業内だけで管理するもの、プロジェクトマネージャが自分の中だけで管理するものなど、いくつかの形式がある。この中で一番重要なのはプロジェクト運営に直結したものである、プロジェクトチームで共有するリスク管理表だと言える。

変更管理

プロジェクトにおける変更管理の対象はスコープ・コスト・スケジュールに分類される。それぞれプロジェクト開始時にベースラインが決められているが、このベースラインを変更する場合は変更管理プロセスに則って行うことが重要。
通常ほとんどの変更管理の対象は仕様変更などの成果物スコープの変更要求から発生することが多い。これらの変更はWBSの変更やコストの変更、スケジュールの変更にも影響してくる。そのため、総合的な視点で変更の可能性を判断しなければならない。

プロジェクトに影響のある大きな変更は安易に起きないように、変更管理委員会で判断し承認されたものが実行されるという仕組みが重要になる。一方、プロジェクト全体に影響はしない軽微な変更(予定と異なる作業や突発的な作業等)の場合はプロジェクトマネージャの判断で変更や是正処置・予防処置を行うこともある。

請負形式で受注したプロジェクトのコスト管理は複雑で、発注者側は請負契約額がコストになり、このコストに対して発注者側のオーナーはマネジメント予備費を持っている。当初契約以外の追加発注が必要になった場合はこの予備費を使うことになる。
受注側は契約で決めた価格は収入金となり、その中から利益を引いた額がプロジェクトコストになる。プロジェクトコストは各タスクに必要なコストとプロジェクトマネージャが必要に応じて使う「コンティンジェンシー予備費」から構成される。

プロフィットマネジメント

発注者側から見たプロジェクトの収益は成果物がもたらすもので、それはプロジェクトが終了して時間がたってから得られるものである。プロジェクトチームはプロジェクト終了と同時に解散するので、長期に渡って成果物(プロダクト)の利益を評価するのはプログラムマネージャの仕事とされている。

受注者側から見ると、プロジェクトの終了をもってプロジェクトの対価が得られるので、プロジェクトチームが存在している期間中にプロジェクトの収入とコストの比較が可能である。受注者側のプロジェクトマネージャの重要な管理項目の1つがプロフィットマネジメントである。ポイントは使用するコストの管理以外にそのプロジェクトの収入の管理をおこなうところにある。

工事進行基準への対応

工事進行基準は2009年から導入されている請負型の業務受注企業の会計基準のことをいう。これは会社の会計部門が行うものでプロジェクトマネージャには関係の無いことではある。ただし、この基準を適用するために必要とされるプロジェクトのコストの予測値を正確に見積るために、各プロジェクトに共通なコスト管理や予測方法を使用しなければならない。

工事進行基準とは

工事進行基準とは、これまでに行われていた工事完了基準に対抗するものである。

  • 工事進行基準
    • 工事収益総額、工事原価総額および決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて決算日ごとの工事収益および工事原価を認識する方法。
  • 工事完了基準
    • 工事が完成し、目的物の引き渡しを行った時点で初めて工事収益および工事原価を認識する方法。
    • プロジェクトが終了するまでは会計期がきてもコスト計上をしないため、赤字で企業に損失がでそうなプロジェクトも、終了するまでは企業会計上に現れてこないことが問題となっていた。

「工事完了基準」は工事が終了した時点で、これまでのすべての費用と収入を計上するものである。それに対して「工事進行基準」は会計期間の決算日における工事進捗度合いを見積り、発生した費用に見合う収入を会計期内で計上するものである。

組織要員の管理

要員の投入に関しては、スケジュールの進捗を見ながら予定通りの投入が可能か常に確認することが重要。自社メンバーが長期に渡り顧客のオフィスに常駐するようになった場合はメンバーのモチベーション維持にも気を使う。

顧客とのリレーション

受注プロジェクトの場合、顧客とのリレーションが最も重要な管理要素になる。プロジェクトマネージャはプロジェクト期間を通じて顧客との良好な関係を維持する必要がある。

顧客とのコンフリクトマネジメント

コンフリクトマネジメントの重要性が広まっている。特に顧客と受注プロジェクトメンバーでコンフリクトが発生した場合には考慮が必要になる。通常は顧客側の方が優位に立つ場合が多く、強制的な解決が行われることがあるとプロジェクトメンバーのモチベーションが下がることになる。可能であれば顧客との関係を上手く保ち、正面から話し合う「対峙」や「問題解決」といった方法を取ることが望ましい。

  • 撤退や回避(Lose-Win)
    • コンフリクトから身を引く
  • 鎮静や適応(Lose-Lose)
    • 意見の異なる部分ではなく同意部分を強調する
  • 妥協(Lose-Lose)
    • 当事者全員がある程度満足できる解決策
  • 強制(Win-Lose)
    • 他者を犠牲にして自分の考えを押し付ける
  • 協力(Win-Win)
    • 異なる観点から複数の視点や見識を織り込む
  • 対峙や問題解決(Win-WIn)
    • いろいろな手段を検討し解決する

顧客からのクレーム処理

リレーションに関する最悪のシナリオは、顧客からのクレームが多発し顧客の信頼を失うことである。クレームになる前に対応することが重要なことだがクレームが発生してしまったら正しく内容を把握し、迅速に行動することが必要になってくる。

状況がこじれてしまったらエスカレーションという手段も解決方法の一つである。顧客の上司あるいは自社の上司に状況を正しく説明し問題解決を仰ぐ。これは上司に告げ口するという対応ではなく、より広い視野を持った企業間の問題解決に委ねるという考え方である。